MY FAVORITE LOGO DESIGN 2015

TAKAYA OHTA
8 min readDec 31, 2015

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先日書いた「MY FAVORITE FREE FONTS in 2015」を予想していたよりも多くの人が読んでくださったことに気を良くして2つめのポストを書くことにした。今日は「2015年に発表されたお気に入りのロゴ・リデザイン」について書いてみようと思う。

Google (と Material Design)
Googleのロゴデザインの刷新は今年行われたロゴ・リデザインのなかでも最も注目を集めたプロジェクトの1つではないだろうか。

新しいロゴでは1999年から用いられてきたセリフ体を廃し, ジオメトリック・サンセリフ・フォントに変更された。新ロゴには「Product Sans」という内製フォントが採用され, このフォントは自社製品や10月に設立されたAlphabet社のロゴにも使用されている。

正直なところ, このリデザインはかなり前から予想できたものだった。同社はここ数年の間に各サービスやAndroid OSのインターフェイス・アップデートを進めており, 2013年にはシャドウを取り除いた旧ロゴに変更しているが, 個人的にはその時点で今回のような刷新が行われてもおかしくないと考えていた。

このエントリでGoogleのロゴ・リデザインについて取り上げたのはデザインの善し悪しというより, 新ロゴへの切り替えを以って同社が推し進めてきたデザイン言語「マテリアル・デザイン」の確立を見て取れたからだ。

僕は昔からGoogleのサービスを利用しているが, 同社に対して特段「見た目のデザインが良い」という印象は抱いていなかった。しかしスマートフォンの普及とAndroidプラットフォームの構築に伴ってデザイン・レイアウトやタイポグラフィ, カラースキームやアニメーションなどのフレームワーク化を進めていくなかで同社のデザインはだんだんとリファインされていった。

デスクトップ版Google Play Musicのインターフェイス

2014年7月, 同社はこれを「マテリアル・デザイン」として発表し, 同年10月にリリースされた Android 5.0 (Lolipop) ではこの概念が本格的に導入されることでAndroidのインターフェイスは全面的に刷新された。2015年10月に Android 6.0 (Marshmallow) がリリースされるまでには同社の製品群のほとんどはマテリアル・デザイン化が完了し, 多くのサードパーティ製Androidアプリもマテリアル・デザインのガイドラインに準拠したデザインとなっている。マテリアル・デザインは今やWeb/Appデザインにおける表現手法の1つとしての地位を確立しており, Googleが自社の顔であるロゴを16年ぶりに満を持して大刷新するタイミングとしては納得がいくものであった。

Medium
ブログメディア「Medium」は10月, サービスのアップデートとともにロゴデザインを一新した。セリフ体を用いたシンプルなシンボルマークは立体感のあるデザインに生まれ変わった。

Mediumの新ロゴには明確なコンセプトが存在し, 見た目のデザインとして表層にも現れているところが良いと思った。

によるデザイン・ストーリーを引用する。

コンセプトとして「相互的に影響し合うアイディアや形を繋げると、新しい考えとして成り立つようなロゴ」を追い求めました。記憶に残る会話のように、流れ、広がり、積み重なっていくようなロゴです。― Mediumの新しいロゴが出来るまで via @erikaito

エントリではロゴデザインの変更理由とデザイン・プロセスが説明されている。旧ロゴは美しいレイアウトの上で各人がストーリーを綴る場所にふさわしい上品さを備え持っていた。しかし彼らはサービスが進化するにつれて旧ロゴではサービスの想いを伝えきれていないと感じたのだ。

Mediumの新ロゴは現在のデザイン・トレンドを抑えている。「シンプル」「ミニマル」「ジオメトリック」…これらの要素は近年発表される多くのロゴデザインに取り入れられている。しかしMediumの新しいロゴはただトレンドを追うだけではなく, トレンドの上にしっかりと彼らのサービスに対する愛と伝えたい想いを乗せた, コンセプトとデザインが結びついているデザインだ。

Opéra de Saint-Étienne
フランスのオペラハウス。賑やかな旧ロゴの雰囲気から一転, 新ロゴはシンプルでモダンなデザインに変わった。

source : Saint Etienne Opera House — Brand design

新ロゴは展開性が良い。シンプルなロゴデザインをビジュアルへと展開する事例は他にも多数存在するが, Opéra de Saint-Étienneの展開例が最も美しい (無理にビジュアルへ結びつけようとしていない) と感じた。

source : Saint Etienne Opera House — Brand design

Oの下部がカットされ, Eの上部に配置されているのが同劇場のロゴの特徴だが, これは劇場の形状が由来とのこと。この辺りのストーリー/コンセプトの結び付けも巧みで, コンセプト→ロゴデザイン→ビジュアル展開という一連の流れが大変明快なプロジェクトだ。

Quora
Q&Aサイト「Quora」は今年の夏にロゴデザインを刷新した。多くの人が気にも留めないであろうこの些細なアップデートは同社のロゴデザインのクオリティを大きく引き上げた。

真っ先に目を引いたのは「Q」の形状変更だ。新ロゴの Q はテール (尻尾) を強調する変更が施されている。Before & Afterを見比べてみると, 旧ロゴの Q のテールは控えめでどこか頼りない印象を受ける。これに対して新しい Q のテールはどっしりと力強く描かれ, 文字全体のシルエットも美しくなった。

他にも多くの微修正が加えられている。Q の形状変更と並んで目立つ変更はミーンライン (エックスハイトの上端部分) の修正だ。旧ロゴではミーンラインに対する複数の文字の傾斜とカーニング (文字詰め) 基準の曖昧さがリズムの悪さを生み出していた。新ロゴではベースラインに対しては傾斜 (u, a) を付ける一方でミーンラインは水平に揃えることで自然な動線を作っている。この改良にはカーニングと r と a のケルン (文字の先端のしずく)同士の角度調整も大きく寄与している。

Quoraの新ロゴは一見すると大きな印象の差は与えないかもしれない。しかし Q の形状変更によってサービスの頭文字である「Q」にはより強度のあるアイデンティティが与えられ, シェイプ調整やカーニングによってロゴ全体に美しいまとまりが生まれた。

リデザインされたロゴを見るのはとても楽しい。
旧ロゴと新ロゴを見比べて「何が変わったのか」とか「なぜ変えたのか」ということについて考えを巡らすことができるし, 制作者が新しいロゴについて自分自身の言葉で語ることも多いからだ。(新規ブランドは他にも話さなければいけないことが沢山あり, ロゴデザインにフォーカスした話を聞ける機会はそう多くない) 新しいロゴについて友人と話すのも楽しい。

僕自身は2015年は「based on STORY & CONCEPT」(ストーリー/コンセプトをベースにしたデザイン)と「pursuit of DETAIL」(ディテイルを追求するデザイン) という2点に重点を置いてCI/ロゴデザインの制作を行ってきた。その点でMediumやOpéra de Saint-Étienneのようなコンセプトとデザインが美しく結びついたデザインや, Quoraのような細かな調整によってクオリティが向上したデザインに対して単に見た目の好みではなく, CI/ロゴデザインの思想として強く共感を覚える。

来年も良いデザインができるように僕も頑張ろうと思う。

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TAKAYA OHTA

DESIGNER / Art Director : 沖縄県出身, 県立コザ高校, 立教大学経営学部, 今はデザインをする仕事をしています。 趣味は欧文書体の収集です。: http://TAKAYAOHTA.com