なぜCIなのか, なぜスタートアップなのか

TAKAYA OHTA
7 min readDec 19, 2017

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このたび, デザイン事務所「TKY+N LAB & DESIGN」を設立しました。

この事務所ではスタートアップを中心に企業と協同しながら, CI (コーポレート・アイデンティティ) を起点にした, ブランドとクリエーティブの設計を行っていきたいと考えています。

今日はどのような想いを持ち, 独立に至ったのかを書きたいと思います。

スタートアップがマイノリティではない時代

2012年, Connehito (コネヒト) という会社が創業されたのが, 私がこの世界に足を踏み入れるきっかけでした。当時の私はデザインをはじめたばかりの学生で, 今ほど身近にスタートアップ企業もなかったので, すべてが手探り状態だったことを覚えています。しかしこの数年で, スタートアップを取り巻く状況は大きく変化しています。

LINE, メルカリ, Instagram… 今や私たちが日常的に使っているサービスやアプリも, この時はまだ芽生えの時代でした。Spotify で音楽をストリーミングするのも, Netflix で映画を観れるようになったのも, この1–2年のできごとです。

「UIデザイン」と呼ばれる領域は, 知識と技術が精度高く体系化されていきました。同時にこの領域には, これまでのデザイン業界とは比べものにならない速さでノンデザイナの人材が流入し, 事業におけるデザインのプレゼンスを引き上げました。創業間もない企業でも, 一定のデザイン・クオリティでサービスがリリースできるのは, この領域の絶え間ない進化の成果だと言えます。

2017年, スタートアップのプロダクトを使うことも, スタートアップに身を置くことも, スタートアップを創業することも, もはやマイノリティではなくなりつつあります。私自身, デザイン事務所からこの世界に身を置いてみることで, やりたいことが徐々に見えてきました。

UIの次はCIだと思うから

2018年, TKY+N がフォーカスするのは「CIデザイン」と呼ばれる領域です。

企業や組織には固有の思想が内在しています。私は, この思想をコンセプトやロゴに変換して, クリエーティブの策定と展開をおこなう一貫した制作を「CIデザイン」としています。

CIは, UIに続いてスタートアップの世界の力になると信じています。先に述べたUIデザインの体系化は, 裏を返せばコモディティ化を意味します。私たちの身近にあるブログサービスや料理アプリを想像してみてください。同じ事業領域に, 同じフォーマットで, 同様のコンテンツを提供する企業がひしめき合っているのが昨今の状況です。

事業において, プロダクトそのものが優位性を持つことに疑いの余地はありません。一方, 製品の競争と成熟の過程で, ブランドへの愛着が勝利の鍵となることは, 市場の歴史が示しています。CIデザインの持つ連続的な思索と制作行為は, その企業 “らしさ” の土台づくりの一端を担い, 均質化へと向かうスタートアップのクリエーティブ/ブランドデザインに, 新たな価値を提供できると考えています。

beyond UI, beyond UX.

Airbnbを使った旅で新たな居場所を見つけたとき, ZOZOTOWNで買った服に袖を通したとき, ママリを使って家族に笑顔が増えたとき。これらの体験はスマートフォンの画面の中だけでは完結しません。Instagramの存在は, 私たちの日々の行動に大きな影響を与えています。オンライン/オフラインという言葉の境界は, ますますあいまいになっていくはずです。

ユーザー・インターフェース (UI) は, ユーザー・エクスペリエンス (UX) に多大な影響を及ぼします。しかしながら, 本来の “体験” とは, ユーザーが触れるもっと前から設計されるべきです。

CIの本質とは, 広義のユーザー・エクスペリエンス = 「社会と生活者に対する体験価値の提供」を定義する作業だと考えています。それは, CIが思想を言語化 (Mind Identity) し, 行動を規定 (Behavior Identity) し, 見た目を定義 (Visual Identity) するという, 一貫したプロセスに則って形づくられるためです。

CIを広義のユーザー・エクスペリエンスとするのなら, コンテンツ, ロゴ (サインとシンボル), インターフェース, ビジュアルデザインなどのあらゆる設計と制作行為は, より包括的/相互的な視点から捉えることができます。従来のUXやUIの議論を超えて, クリエーティブの側面から企業と事業の価値を見つめる局面が, スタートアップにも訪れると確信しています。

と, 偉そうなことを書きつらねてきましたが, CIデザインについて理解を深めれば深めるほど, 私自身に未達な部分が多くあることに気が付きました。思想を外向けの言葉へと変換できるひと, 展開力のあるビジュアルを描けるひと, インターフェースの設計に長けているひと, メートルのスケールでデザインを構築できるひと。私自身はVI/ロゴデザインの精度を更に高めながら, さまざまなプロフェッショナルと協同することで, カバーする範囲を広げていきたいという思いが日に日に強まっています。これが, 今回の法人設立に至った理由です。

この半年間, 複数のプロジェクトを通して, 創業者は強い使命感や課題感を持っていることが多く, 想いを体現するCI設計との相性の良さを感じました。この作業にデザイナが一貫して携わることで, 最終的なアウトプットを意識しながら, 見た目のデザイン以前を設計することができます。これは, 純度高く思想をクリエーティブに変換する上でとても重要な要素だと考えています。

前回の転職エントリから約2年が経とうとしています。

今回の独立はあらかじめ予定していたものではなく, 未だ確立されていないことも多い領域ということもあり, 2年前以上の不安を感じています。一方であのとき以上に心が踊っています。

2016–2017年は, 公私ともに多くの別れを経験しました。
それと同じくらい多くの出会いに救われ, そのことが今の制作の原動力の1つになっています。

TKY+N は, デザインに対してピュアに向き合いながら, デザインの本質的な価値を探求する場所にしたいと考えています。そして, 制作と研究を通して得た知見は, 同じくデザインと向き合う方々に実利がある形で共有していきたいです。

どうぞよろしくお願いいたします。

平成29年12月 吉日
タカヤ・オオタ

※ 独立を機に, ポートフォリオサイトも少しだけアップデートしました。定期的に TKY+N が担当させていただいたプロジェクトを掲載していきます。

Instagramアカウントでは, ポートフォリオでは紹介できなかった制作のプロセスやオフショット的なものを紹介しています。

Twitterアカウントはろくなアカウントではありませんが, リリースの前後だけデザインについて真面目な投稿をしたり, 制作過程をモメントにまとめています。もし良かったらフォローしてみてください!

※ 事務所を開設しました!プロジェクトで忙しく, まだ何も用意できていません…もしよければ引っ越し祝いとして Amazonウィッシュリストをお贈りしていただけるととても嬉しいです!

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TAKAYA OHTA

DESIGNER / Art Director : 沖縄県出身, 県立コザ高校, 立教大学経営学部, 今はデザインをする仕事をしています。 趣味は欧文書体の収集です。: http://TAKAYAOHTA.com