東京はマイノリティ

TAKAYA OHTA
Sep 20, 2018

僕は制作においてリサーチを重要視している。

なぜならリサーチは「どのような制作手法を採り、どのようなアウトプットに仕上げるのか?」という全体の制作方針を決定づける存在だからだ。

リサーチの精度が甘ければ、コンセプトの精度が甘くなる。コンセプトの精度が甘ければ、最終的なアウトプットの精度も甘くなると考えている。

僕が制作の主領域にしている CI / BI デザインでは、より幅広い層やステークホルダーの支持を巻き込むフェーズにて、企業やブランドのアイデンティティ / クリエーティブも先を見据えたものにしたい。というご相談が多くを占める。

依頼を受けたのち、制作前に対象となるユーザーが日頃どのような生活を送り、どのようなものを好み消費しているのか調査と分析を行う。ここで注意しているのは、東京を中心とした価値観では多くを見誤るということ。

たとえば、僕の故郷である沖縄と東京の同年代の知人では、生活も価値観もまるで違う。日々の買い物を Amazon で済ませる人はまれだし, UberEATS を使うことも, タクシーに乗ることもめったにない。「若者の好みが多様化している」は、極一部に限った話だったりする。Twitter や Instagram は現実空間の写し鏡で、100人のフォロワーのうち7割以上の友人がリプライやふぁぼを付け合っている。僕のタイムラインでは考えられない話だ。

これは東京と福岡でも、福岡と青森でも違うはずだし、東京だって中央線の三鷹駅以西は街や人の雰囲気が違う。どちらが良いとか悪いという話ではなく、そういった空気の変化に敏感でありたいと思う。「同世代」と言えどそこには数多くの嗜好・価値が存在し、デザインする対象物がどこまで届きうるかを考慮した設計を心がけたい。

日頃, 自分が過ごしているコミュニティや生活圏の価値観に疑問を持たずデザインするだけでは, 本当の意味で日本中のユーザーに受け止めてもらえる意匠を作ることは難しいと感じる。そもそも万人にウケるデザインなんていうものは虚構かもしれない。それでも, リサーチを通して集めた情報と判断によって, 設定した範囲の中での最大公約数を志向したい。

個人的にオススメなのは, インターネットや図書館での定量調査に加えて, 自分の目で多くを見て体験すること。制作前は東京以外の街へ行くようにしている。「駅」や「ビル」と付く場所でも, 東京都心のそれとは規模も人の数も全然違う。地方にある大きなイオンもポイント。渋谷にはないブランド / 価格帯のお店で, 同世代の人たちがどのようなものを好いているのか, 建物の中を一巡するだけで色々な情報を得ることができる。

Uberのロゴ

先日の Uber ブランド・アイデンティティ (BI) 刷新も, 今日のテーマに近しい課題を解決するアプローチを取った印象がある。旧BIの「ビットとアトム」というテーマは解説を読んでも難解だったし, ロゴから読み取れる人はほとんど居なかったはず。

Uberは世界中で展開するサービスであり, さまざまな思想, 文化, 教養を持つ人々がユーザーである。そのようなブランドは, 多様な価値観の中でも定着するクリエーティブを志向するのがセオリーだ。新しいUber BIは旧案の影響を顧みながら, 最新のデザインシステムも取り入れているところが良いと思った。

リサーチの結果を受けて, どのように解釈して目に見えるデザインへと落とし込むかがデザイナの腕の見せどころだ。僕はCI/ロゴとしての耐久性を考慮した, 普遍性を持つ意匠を作りたい。同時にアウトプットのレベルを引き上げるために必要であれば, 最新のトレンドやシステムも取り入れる方針を取っている。どこで踏襲して, どこで逸脱 (差別化) するべきか。このバランスもリサーチを通して知ることができる。

先日 登壇した「CXO Night」というイベントのなかで, 制作時のリサーチについてたくさんご質問をいただきました。来週からは新しい制作も始まるので, 自分の中での振り返りも兼ねて, (具体的なリサーチ法でなく)心構えのようなものを散文として書きました。リサーチ頑張るぞ!

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TAKAYA OHTA

DESIGNER / Art Director : 沖縄県出身, 県立コザ高校, 立教大学経営学部, 今はデザインをする仕事をしています。 趣味は欧文書体の収集です。: http://TAKAYAOHTA.com