MY FAVORITE LOGO DESIGN 2016 & TRENDS 2017

TAKAYA OHTA
9 min readJan 29, 2017

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2015年の暮れに Medium を始めたとき, その年に発表されたお気に入りのロゴを紹介した。なぜそのロゴを良いと思ったのか言葉にして考えるよいきっかけになったので, 今日は「2016年に発表されたお気に入りのロゴ・デザイン」について書いてみようと思う。

Instagram (in-house)
2016年5月に発表された「Instagram」のきわめて記号的な新アイコンは, 我々こそがカメラアプリのデファクトスタンダードであるという意志の表明を感じさせるデザインだ。

Googleの「G」, Facebookの「f」のように頭文字をアイコンとして, 利用者が “彼ら” を連想できるサービスが強いブランドだとする時流があった。同様の行為をフラット化された時代に行うことは, 記号的なアイコンを取ることを意味すると考えている。時計アプリは「時計」を, 天気アプリは「天気」を記号で表現するが, 標準アプリほどその装飾の度合いは単純化されている。

Instagram は純正アプリと同じくらい, 自身を OS に融け込ませることを意図したのではないだろうか。彼らのアイコンは iOS 標準の「カメラ」アプリよりも記号的な形状だ。

グリフとブランドを結びつけることは容易ではない。Apple の「林檎」, Twitter の「鳥」がこれに成功しているが, 「カメラ」は彼らと比較しても形状的特徴が薄い。ゆえに発表当時は「Instagram だと分からない」という批判もあったが, 今では多くの人が迷うことなく新しいロゴをタップしているように見える。

Instagram の新しいアイコンは, Webサービスと私たちの生活がこれまで以上に密接し, 圧倒的支持を得ているサービスは日用化できる時代であると, 彼ら自身がプラットフォーマーとしての自負を以って証明しようとしていることを感じさせた。

Paris Convention and Visitors Bureau (by Graphéine)
パリ市観光局のロゴはタイポグラフィによってパリを表現する, 力強くて親しみのあるデザインに変わった。

昨年のエントリで挙げた同国のオペラハウス「Opéra de Saint-Étienne」がそうであったように, ロゴ・タイプに視覚的に分かりやすい意味性 / 象徴性を持たせる表現手法は2016年も効果的だった。

パリ市観光局の新しいロゴは「A」を市の観光名所・エッフェル塔に見立てることで, 観光客の目を惹き付けることに成功している。この表現自体は目新しいものではないが, そのロゴがそうであるべき理由 ――「A」を「エッフェル塔」に見立てることはパリだからできる――を明快に伝えている好例だ。

source : Office du Tourisme et des Congrès de Paris (Graphéine)

文化・観光産業において都市のシンボルとロゴを結びつけることは強力なアイデンティティとなる。2015–2016年は, 2020年東京オリンピックのエンブレム・デザインが注目を集めるなか, それを明快に示したパリ市観光局のロゴは印象的だった。

Tate (by North)
イギリスの20世紀美術を展示する「Tate」は6月, Tate Modern の新館公開に併せて “着実な改良” が施された新ロゴへアップデート。

source : Tate Case Study (Wolff Olins)

オリジナルのロゴは2000年, 当時 Wolff Olins のクリエイティブ・ディレクタだった Marina Willer 氏によるもの。ボケを用いた「TATE」の文字は特定のスタイルが規定されない可変的なデザインが特徴的で, 今でもロゴデザインの書籍に取り上げられる名作である。

可変的なロゴは多くのボケやウエイトを作り, それが統一感の低下や運用上の混乱を生んだと推察される。新しいロゴは数十とあったパターンをひとまとめにして, 旧ロゴよりも大きなドットによってボケを表現したデザインに生まれ変わった。

Tate のオリジナルのロゴは印象的でありながら, 16年が経過しても色褪せないデザイン性を持っていた。新しいロゴはただ見た目の新しさを求めて刷新するのではなく, これまで Tate が培ってきたブランド価値を基調としながらリデザイン (着実な改良) した点が素敵だと思った。

FRIL (in-house)

2016年10月, フリマアプリ「FRIL」 はアイコン・ロゴの刷新を行った。

新しいロゴはシンボルにフリーマーケットの「屋根」を, カラーリングに蚤の市の由来であるフランスのトリコローレ・カラーを採用している。デザイン・プロセスは 運営元の Fablicブログでも詳説されているが, 旧ロゴのアイデンティティの弱さをデザインの背景と見た目を以って刷新している良い事例だった。

旧ロゴの長体ロゴタイプはトレンドに少し遅れての採用だったため, 今回のリニューアルでジオメトリック・サンセリフ型のタイプに生まれ変わった点も良いと感じた。

Kodak (by Work-Order)

世界最大の写真用品ブランド「Kodak」が10月に発表した新しいロゴは, 2016年に発表されたロゴの中で最も衝撃的だった。

source : Kodak (Work-Order)

シンボルマークはなんと約45年前のロゴをベースにしたもの。
時代を巻き戻しながらも古臭さを感じないのは, 時代的に70's-80'sへの回帰がトレンドになっていることに加えて, 写真用品は保管期間が長いため2006年まで使われていたシンボルに親しみがあったからだろう。

フィルムの穴に見立てて垂直に組まれた「KODAK」の文字は, カメラのシャッターをモチーフにしたオリジナルのデザインにとても自然に馴染んでいる。「刷新」とも「リデザイン」とも取れる事例はとても珍しく, 興奮した。

音楽やファッションなどの分野では既に回帰的ムードが見られるが, それを CI でやることに衝撃を感じた。若いブランドなら “流行に乗っただけ” と受け取られそうなことも, Kodak のような歴史ある企業が行うとブランドに厚みを感じさせるのは CI/BI の設計としても絶妙だ。

ちなみに同社が2006年から2016年まで使用していたロゴは, 2010年代のロゴでトレンドになっているジオメトリック型を採用している。今回のリニューアルで初めて旧ロゴを意識したが, Kodak の CI は10年前からとても先進的だったのだ。

2016年も多くのブランドとサービスがロゴを刷新/リデザインを実施した。2015年は Google が16年間使われたロゴが刷新したことが印象的だったが, 2016年は Instagram がスマートフォンのホーム画面にしぶとく鎮座していたスキューモーフィズムなアイコンを刷新したことが1番のニュースだった。

2017年のロゴデザインのトレンド予測としては既存ロゴのフラット/単純化が挙げられる。2016年に発表された Mastercard の新しいロゴは PayPal (2014), VISA (2014) と同様のルールで刷新された。大幅なブランド・イメージの変更にリスクとコストが掛かるブランドにとって, 一定の既存イメージを保ちつつ刷新を行えるフラット/単純化はスマートフォン時代との相性も良いことから, 今年も引き続き多くのブランドが採用することが予想される。

Airbnb (2014) の線形表現, Netflix (2016) の “N” アイコンによる短縮表現, ジオメトリック・ロゴタイプなど, 多くの表現は引き続き5インチの世界を前提として行われるだろう。最も印象的だった Kodak のようなクラシカルテイストの表現は分野によって新たなトレンドになるかもしれない。(Webデザインのジオメトリックに対する手描き/ブラシ風文字の流行のように)

Instagram のような急進的な刷新はどうだろう。スマートフォンに注力し複数のサービスがひしめく音楽サービスは同様のアプローチを取り入れやすい分野だが, Apple や Google, Amazon など Spotify 以外は既にプラットフォーム下のサービスであるから Instagram ほど攻める想像は難しい。

個人的には長らく現在のロゴを用いている Pinterest, リデザインを続けている Spotify, Dropbox あたりが今後数年で大きな刷新をしないかと楽しみにしている。

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TAKAYA OHTA

DESIGNER / Art Director : 沖縄県出身, 県立コザ高校, 立教大学経営学部, 今はデザインをする仕事をしています。 趣味は欧文書体の収集です。: http://TAKAYAOHTA.com